
任意整理を自分でやることを考えていませんか?
「弁護士に頼むと費用がかかる」
「自分で直接交渉すれば、弁護士費用の節約ができるのでは?」
「どうせ話し合いだから、自分でもできるはずだ」
こうした考えを持つ方が相談に来られることがあります。費用を少しでも抑えたいという気持ちはよく分かります。
ただ、結論からお伝えすると、任意整理を自分で行うことには、法的知識がなければ気づけない深刻なリスクがあります。
本記事では、私がこれまで多数の債務整理案件を通じて見てきた「本人交渉の落とし穴」を、具体的にお伝えします。
任意整理とは何をする手続きか
まず、任意整理がどのような手続きかを確認しておきます。
任意整理とは、弁護士(または司法書士)が債権者と交渉し、将来発生する利息のカットや分割返済の条件を取り決める手続きです。裁判所を通じず、当事者間の合意で進められるため、比較的柔軟に対応できるのが特徴です。
ただし、「柔軟に対応できる」ということは、交渉次第で結果が大きく変わるということでもあります。専門的な知識と経験を持つ者が交渉するか、そうでない者が交渉するかによって、最終的な返済条件に差が出ることがあります。
本人交渉に潜む4つの落とし穴
落とし穴①:取り立て・督促が止まらないまま交渉を続けることになる
弁護士に依頼すると、まず「受任通知」を債権者に送ります。これにより、貸金業者や債権回収会社からの直接の取立て・督促は原則として止まります。
ところが、自分で交渉する場合、この受任通知を出すわけではないので、督促の電話やメールが続く中で交渉を進めなければならないという状況になります。
督促に怯えながら交渉を進めることで、冷静な判断が難しくなるのは当然のことです。次の落とし穴②は、まさにそこから生まれます。
落とし穴②:督促に怯えて、不利な条件をそのまま承諾してしまう
私が相談を受けたケースの中に、本人交渉を試みた方から引き継いだ案件がありました。
債権者から繰り返し督促を受けるうちに精神的に追い詰められ、債権者側が提示した返済条件をそのまま承諾してしまったというものです。将来利息のカットが十分でなく、また返済期間も短く設定されていたため、毎月の返済額が生活を圧迫する水準になっていました。
弁護士が交渉すれば改善できた可能性がある条件であっても、いったん合意してしまうとその変更は容易ではありません。
督促のプレッシャーがある中では、「早く終わらせたい」という心理が働きます。その心理を利用されるかたちで、不利な条件を飲まされてしまうリスクがあります。
落とし穴③:何気ない一言が「債務承認」と評価され、消滅時効の援用が難しくなる
これは、本人交渉のリスクの中で特に注意していただきたい点です。
借金には消滅時効があります。最後の返済や借入れから一定の期間(原則5年)が経過しており、かつその間に時効を更新させる事情がなければ、「消滅時効の援用」により返済義務を免れる可能性があります。
しばらく音沙汰がなかった債権者から突然督促が届いたとき、「時効が成立しているかもしれない借金」である場合があります。
ところが、そのときに「分かりました。支払いますので少し待ってください」といった返答をしてしまうと、これが「債務承認」と評価される可能性があります。 債務承認があると時効は更新され、その時点から新たに進行します。時効援用によって返済義務を免れる余地が失われることがあります。
普通の会話のつもりでした返答が、法的に重大な意味を持つ「債務承認」と判断されてしまう。これは法律の知識がなければ気づけないリスクです。
債権者から連絡が来たとき、特にしばらく音沙汰がなかった業者から突然督促が届いたときは、返答する前に必ず弁護士に相談してください。「弁護士に相談してから返事をする」といった回答を一先ずしておくとよいでしょう。
落とし穴④:利息カットなし・厳しい返済条件のまま交渉が終わってしまう
任意整理の目的のひとつは、将来利息のカットを交渉することです。これにより、元本だけを分割返済できるようになり、完済の目処が立って、負担軽減につなげることができます。
しかし、交渉の経験や知識がない状態で債権者と向き合うと、利息カットの交渉が十分にできないまま、条件の悪い和解に至ってしまうことがあります。 債権者は交渉のプロであり、こちらの知識不足や焦りにつけ込むかたちで、不利な条件を提示してくることがあります。
弁護士が交渉することで、各債権者の実務上の対応方針を踏まえた条件提示ができ、依頼者にとってより有利な和解内容を実現できる可能性が高くなります。
「費用を節約しようとしてかえって高くついた」
本人交渉を試みた後に相談に来られる方の中には、「弁護士費用を節約しようとしたが、結果的に返済総額が増えてしまった」というケースがあります。
利息カットが不十分なまま和解してしまったり、消滅時効の援用が難しくなったりすることで、最終的に支払う金額が、弁護士費用を支払ったとしても依頼していた場合より多くなってしまうことがあるのです。
費用を節約したい気持ちはよく分かります。ただ、「弁護士費用を払わない」ことと「費用を節約できる」ことは、必ずしも同じではありません。
弁護士としてお伝えしたいこと
任意整理の交渉は、一見すると「話し合い」のように見えます。しかし実際には、消滅時効の援用可否の判断、利息制限法に基づく引き直し計算、各債権者の交渉対応など、法的な知識と経験が求められる場面がいくつもあります。
私が特に強調したいのは、「しばらくぶりに業者から督促が届いた」というケースでは、返答する前に必ず弁護士に相談してほしいということです。
その借金が時効を援用できる可能性があるかどうかは、専門家でなければ即座に判断できません。返答する前の段階であれば、選択肢はあります。しかし返答してしまった後では、取り返しがつかないことがあります。
費用のご心配がある場合は、分割払いへの対応や法テラス(日本司法支援センター)の利用についても、ご相談の中でご案内します(法テラスの利用には資力基準を含む一定の要件があります)。詳しくは「債務整理の弁護士費用はいくら?」をご参照ください。
よくあるご質問
Q. 任意整理は本人による交渉ができますか?
A. 法律上、任意整理を本人が自ら行うことを禁じた規定はありません。ただし、本記事でお伝えした通り、交渉経験や法的知識がない状態では、不利な条件を承諾してしまったり、消滅時効の援用が難しくなったりするリスクがあります。
Q. 突然、昔の借金の督促状が届きました。どうすればいいですか?
A. 返答する前に、まず弁護士に相談することをお勧めします。最後の返済から相当の期間が経過している場合、消滅時効の援用ができる可能性があります。返答の内容によっては債務承認と評価されることがあるため、慎重な対応が必要です。
Q. 過去に自分で債権者と話し合い、返済の猶予をお願いしてしまいました。今からでも弁護士に相談できますか?
A. もちろん相談いただけます。すでに返答をしてしまっている場合でも、現時点での状況を整理した上で、取り得る対処を一緒に検討します。まずは現状をお知らせください。
Q. 任意整理の費用が払えない場合はどうすればいいですか?
A. あゐ法律事務所では、弁護士費用の分割払いに対応しています。また、一定の要件を満たす場合は、法テラスの立替制度を利用できることがあります。費用のことも含めてご相談ください。詳しくは「債務整理の弁護士費用はいくら?」をご覧ください。
Q. 「任意整理は自分でできる」と書いてあるサイトを見ました。実際のところはどうですか?
A. 手続きとしては本人が行うことは可能ですが、「できる」ことと「適切な結果が得られる」ことは別です。本記事でお伝えしたリスクを踏まえた上で、判断されることをお勧めします。
まずは状況を整理することから始めましょう
「自分で何とかしなければ」と思って、一人で抱えていませんか。
督促が続く中で冷静に交渉を進めることは、精神的にも非常に消耗します。また、法的知識がない状態での対応が、取り返しのつかない結果を招くこともあります。
あゐ法律事務所では、まず現在の状況をていねいにお聞きした上で、今できる選択肢をわかりやすくお伝えします。費用のことも、手続きのことも、何でもご相談ください。
一人で抱え込まず、まずは声に出してみてください。
あゐ法律事務所 弁護士 竹内欣士
大阪弁護士会所属
【免責事項】本記事は、債務整理に関する一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別具体的な法律相談に代わるものではありません。記載内容は執筆時点の法令・実務を前提としており、法改正や個別事情により結論が異なる場合があります。具体的なご判断や手続の選択については、必ず弁護士にご相談ください。